読む仏教百科(菊村 紀彦)
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仏教、とひと口に言っても、その思想は多種多様で、とてもひと口には言い表せない。仏教を語る言葉は星の数ほどあって、あらゆる軸において、正反対の意見や立場が混在している。
本書は、そんな仏教を、日常用語から専門用語まで、一応これだけ押さえておけば、まずは全体像か見えてくるよ、という言葉を網羅的に紹介している。そして、それを辞書の形にするのではなく、エッセイ形式で読み物として構成しており、大変コンパクトに、かつ、豊かに紹介することに成功している。
仏教をテーマにした本は、それなりにたくさん読んできたが、非常によく出来た本である。
まとめ方の「ちょうどよさ」が素晴らしい。ちょうどよい、というのもあいまいな表現だが、その心は、全体的なボリュームや解説の粒度が、ちょうどよいのである。学校教育を通過し、大人になって、そういえばとふと手に取ったときに、全体をパラパラと眺めていくと、なんとなくわかった気になれるようなもの。全体と部分のバランスが取れていて、決定版のようでもあり、入門書でもある。アカデミックさとエンタメ感のバランスが取れている。
世の中に、様々な仏教解説書があまたあるなかで、こうしたまとめかたは、どこかにありそうなものである。が、探してみると、意外と、どこにもない。
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日本社会で生まれ育った人間が、書物を通して仏教を意識的に対象化して学ぼうとすると、そこに待ち受けているのは混乱である。
そもそも、日本文化は、日本社会で生きる人が思っている以上に、仏教的な考え方が濃厚に反映されている。源氏物語や平家物語、あるは能や歌舞伎、茶の湯、俳諧といった文学、芸能関係はもちろんのこと、武道、武士道の世界の根本には、例外なく、仏教の存在がある。
日本社会は、生きるとは何か、世界とは何かを理解するために、仏教を学んできた。
日本社会のOSが仏教のみで構成されていたら、さぞ面白い国になっていたんじゃないかと思うが、もちろん、ご案内の通り、我が国の文化思想は、宗教的には神道、儒教、キリスト教、政治経済思想には資本主義やリベラリズムなど、種々雑多な要素のチャンポンである。